西武新宿線の線路の目の前、花小金井駅から徒歩2分のマンション1階にあるしみず内科循環器クリニック。今年で開業から14年目ですが、今でも順調に新患数は増え、曜日を問わずひっきりなしに患者さんが訪れています。中でも患者さんの来院理由の第1位は口コミなんだそうです。
開業当初からホームページには必要最低限のことしか書いていないのに口コミで患者さんが集まる理由について、清水先生にお話を伺いました。
目次
開業時にもっとも気をつけたのは物件選び
―ご開業の準備の中で、一番気をつけたことはなんでしたか?
やっぱり物件探しですかね。駅から遠いところも候補としていくつかあったんですけど踏ん切りがつかなくて、駅から近いところがないかとずっと探していたんです。そんなときにちょうど今のこの建物がテナントを募集しているということを知って、ここだと思ってオーナーに直談判して貸してもらえることになったんです。
―駅の近くにこだわった理由はなんですか?
駅から近い方が患者さんが通いやすいと思ったんです。あと、この花小金井駅周辺にはいくつかのクリニックがあって、私が開業する以前からそれぞれのクリニックが専門性を打ち出して診療していたのですが、たまたま循環器はなかったことも決め手になりました。
そこで今後のことも考えて、広く浅くやるよりは専門性を出していった方がいいだろうと思って、しみず内科循環器クリニックとして開業しました。
家族・知人からの紹介患者率が重要
―ご開業されてからは、日々どんなことに気をつけて診療していますか?
アンケート調査を半年に1回ほどやっていて、家族や友人から勧められて来院したという初診の患者さんがいかに多くなるか、ということを1番大切な指標にしています。
病院や診療所からの紹介というのは地理的な条件や知っている先生だからという理由でよくあることなんですが、家族や友人が勧めてくれるっていうことは絶対その先生にハズレがないと思って勧めるわけじゃないですか。だから家族や友人からの紹介という理由で来院する患者さんが初診の割合の中で常に上位に来るように、スタッフ全員がそういう気持ちを持って対応するようにしています。
自分の親に評判の悪いところは絶対に紹介しないですし、その先生が良いと思うから人に紹介するので、そういう人が常に多く来るようにということを意識しています。
口コミを増やすにはまず、患者の不安をすべて受け止めること
―先生、それって口コミと言われることだと思うのですが、何か具体的にやっている取り組みなどはありますか?
実はこれといって特にないんですけど、しいて言うなら、一人ひとりの患者さんにきちっと誠実に接するということですかね。患者さんは、こちらから見ると全然たいしたことないとか、まったく間違っているようなことでも自分の中の苦しいとか心配とかいう不安を持って来るじゃないですか。だからそれを私が医療者としてきちんと受け止めてあげたいと思っているんです。
病院に勤めていた頃によくあったのが、それぞれの先生にいろんな立場があるというのはわかっているんですが、患者さんを診察せずに家に帰してしまうんです。どこで診てもらえばいいのかわからなくて来た患者さんに「自分の専門じゃない」とか「それは病気じゃない」とか言って。でも患者さんは不安で何かしらの救いを求めて病院に来ているので、まず患者さんのそういう気持ちを大事にしたいと思っています。
私としてはやはり、患者さんには納得して安心して帰ってほしいという気持ちが常にあるので、今はそれを自分のクリニックでやるようにしています。
目を見て患者の話を聞くこと。カルテ入力はあとで。
―患者さんはどうすれば安心して帰れると思いますか?
まず、患者さんの話を最後まで聞くことじゃないですかね。病院と違ってクリニックだとどうしても患者さんと密につながることが多くて、診察の中でいろんな家族の話やまったく関係ない話から始まることもあるんですが、それも含めてすべて聞くようにしています。
あとは、電子カルテを打ちながらしゃべらないようにしています。カルテを入力しながら話を聞いてると患者さんもあまりいい気がしないかなと思うので、しゃべり終わってからカルテを入力してるんです。
ーでもそれだとカルテたまっちゃいません?
すごいたまる(笑)夜中まで入力してるから大変です。でも患者さんが安心してくれるならその方がいいと思って。
ー患者さんみんなの話をしっかり聞いてたら、待ち時間もすごく長くなりますよね?
そうですね、長くなっちゃいます。でも待たせてるときこそ、じっくり聞いてあげないと悪いかなと思ってるんですよね。忙しいとやっぱりぱぱっと終わらせたくなっちゃうと思うんですが、そこはいい加減にならないように気をつけています。だからもっと待ち時間が長くなっちゃうんですが、それでも患者さんは待っててくれるから期待に応えないといけないなと思うんです。
ー待ち時間が長くなるとスタッフさんもちょっとプレッシャーになりませんか?患者さんからの目線が痛いとか…
それは確かにね、ちょっと申し訳ないと思う部分もあるんですが、スタッフにも私の考えはだいぶ浸透してきたので、あまり心配していません。
スタッフ教育は自らの思いを日々共有し続けること
―どうやって浸透させていったのですか?
毎日のミーティングで気づいたことを言うようにしています。1日1回、10分程度の朝のミーティングを開業以来ずっと続けています。そこでその日の予約状況や院長のスケジュールの共有とか、前日の問題点などを話しています。患者さんへの対応で私が引っかかった点などがあれば、私自身からスタッフに伝えます。
あとスタッフにはいつも、患者さんの話は否定せず、最後まで聞くようにと言っています。私は、当院の対象ではなさそうな症状で来院した患者さんでも口コミでわざわざ来てくれたんだからなんとかしてあげようと思っているんです。私の専門じゃないとか、どこに行けばいいかわからないからここに来たとかいう患者さんも結構いるので、診察の合間にちょっと顔を出して、ここの病院に行ってみたら?っていう相談だけの患者さんも多いんですよ。問診すれば看護師さんでもどこに行けばいいのかわかることも多いんですが、患者さんはやっぱりお医者さんに言われた方がホッとしますからね。
だから受付のスタッフにも、当院の対象ではなさそうな患者さんが来てもすぐその場で、「うちではその症状は専門外なので診察できません」とか言うのではなく、最後まで患者さんの話を聞いて、その患者さんがどうしてここに来たのか、なにか他にできることはないか、ということを一番に考えるように、と言っています。もう10年以上、日々私の考えを伝えているのでだんだんと浸透してきたのか、スタッフが考えて動いてくれるようになりました。
さりげない声かけとスタッフ間の情報共有が患者を安心させる
―スタッフさんが自発的にやっていることを教えていただけますか?
患者さんにさりげなく声をかけているのはよく見ますね。帰り際に「今日は風が強いので、お気をつけてお帰りください」とか。スタッフから声をかけることで患者さんも少し安心できますし、次から話しかけやすくなると思います。
また以前、あるスタッフが患者さんに電話をかけたことを他のスタッフに共有していなくて、かけ直してくれた患者さんに「こちらからかけましたっけ?」と言っている場面を見て、これじゃだめじゃないかと話したことがあったんです。病院から電話があるというのは、患者さんにとっては不安なことなので、その対応では「この病院大丈夫なの?」と思われてしまうよ、と。
その後、今ではスタッフが電話対応リストを作って、誰がどんな用件でかけたのか情報共有するようになって、患者さんへの電話応対が良くなったと思います。電話をたらい回しにしないことも患者さんのクリニックへの安心につながりますからね。
ースタッフさんにもきちんと、患者さん目線が浸透しているのですね。
そうですね。スタッフ全員で患者さんの不安に寄り添い、不安を解消してニコニコして帰っていただく、ということを心がけているので、そういうクリニックの雰囲気が結果的に口コミにつながっているのかもしれませんね。
患者のための地域や医療情報の発信に院内サイネージを活用
―今では口コミで来院する患者さんが1番多いそうですが、開業当初からそうだったわけではないですよね。患者さんへの情報発信はどのようなツールを使っているのですか?
開業当初からホームページとデジタルサイネージを利用しているんですが、忙しくてホームページはほとんど更新できていないんです。更新しているのは、診療案内とか、休診とかくらいかな。
ーホームページはシンプルな感じですよね。待合室のサイネージはどうですか?
サイネージは手軽に依頼できるので、開業当初から情報発信によく使っています。医学的なことでいえば高血圧のガイドラインが変わったとか、新しい疾患のガイドラインだとか、小平市の医師会からくるインフルエンザの発症状況を流したりとか。
あとメディキャスターの共通番組でよく病気のことを流してくれるじゃないですか。こちらからの依頼がなくてもコンテンツがいっぱいあって、あれは患者さんがすごく喜んで見てくれるから、重宝してるんですよ。あとうちは、災害時の避難の仕方とか、お薬手帳の話とかも流してます。
最近流し始めたのは、認知症の方向けのオレンジカフェっていう場所の紹介とか地域包括支援の案内とか。認知症に関してはどこで相談していいのかわからないから診察室で言わない人もいるんだけど、待合室で流しているのを見て初めて知ったという患者さんもいるんですよ。病気のこと以外にも地域からの医療に関する情報や在宅介護の情報もなるべく流すようにしています。
ー弊社のサイネージのユーザーの中でも先生は地域の医療情報をかなり手厚く流されています。どんなお考えで院内サイネージを活用していますか?
そうですね。医学的なことだけじゃなくて、介護も含めて医療だから、これからの超高齢化社会で、国が地域包括ケアと言って年を取っても同じ場所で生活する、自分の町で最期を迎えるというために、できるだけの情報を発信できればなと思って。
マメな先生だったらホームページに載せたりするんだろうけど、私はそうじゃないから(笑)
診察室では聞けないこととか、どこで聞いたらいいかわからない情報を待合室のサイネージで流しているから、それも患者さんの口コミの一因になっているのかもしれないですね。