すっかり春ですね。卒業と新入学のシーズン。
娘の卒園式に出席しながら、私も何かから卒業したいと思いつつ、40歳にもなると何からも卒業出来ないしがらみだらけの人生を送っております。
今回、私が3年ほどコソコソ開発していた新規サービスを先日リリースすることになったので、今回は少し新規サービスの紹介をできればと思います。
インテリジェンス問診「SymView」
今回MCFからリリースしたのは、インテリジェンス問診「SymView」というサービスです。医療機関の受診時に書く問診票のWEBサービスです。単に紙の問診をデジタルにするのではなく、問診票をもっとインテリジェンスにすることで診察の業務効率を上げつつ患者満足も高められるのでは、という思想で開発してます。
特徴としては
- 病気とか症状のデータベース及び診断推論のエンジンを搭載している。
- それにより、紙の問診では実現できなかった「患者の症状を掘り下げて、診断に必要な質問を適切に聞くことができる」ようになる。
- 患者の回答した症状や質問の回答から、推論される疾患リスト(鑑別リスト)を抽出・確率計算し、患者の問診結果とあわせて表示する。
- 患者の問診結果(質問と回答)は、医学用語に変換され電子カルテに自動的に貼り付けることが出来る。
というところです。
今までの紙の問診って、基本的にどんな症状の人だろうが同じ内容の質問なので、そんなに深い内容の質問を載せておくことも出来ないですし、そもそも医療機関でもあまり重要視されていないんですよね。だから、紙の問診に書いた内容でも診察に行くと再度医師から聞かれる(問診に書いたじゃん!怒)ということを経験した人も多いと思いますし、医師からしても、患者の症状とか訴えをもう一度聞いて、電子カルテに記入する手間もかかっています。
問診は患者と医療機関のひとつの重要なコミュニケーションポイントだと思っていて、問診の価値の再構築みたいなことができないかな、という事をぼんやり考えてます。
たぶん、このブログは医療系じゃない人も読んでいるので、少し今の医療の問題点(だと私が感じている事)についてふれてみたいと思います。
現状の診察と、私が目指したい姿
内科や小児科の診療で一番重要なのは医師による問診です。もちろん、検査も大切だけど、医療的にはその検査を実施すべきかも含め問診によって推論し、必要な検査と思われる場合に限って検査を行います。問診が得意なベテラン医師ほど無駄な検査が少なくなります。(図1)
しかし、外来(通常の受診のこと。入院ではない診療)での診察は日本の保険制度の関係上、とにかく回転率を高めて一人あたりの患者を早くこなしていくことが求めらます。なので、医師の診察では、「必要最小限の事を」「効率的に」患者からヒアリングしていくことが求められていますし、時間をかけることも許されません。ただ、あまりに効率重視でやりすぎると、確認しておくべき事が漏れてしまったり、患者からすると私の話を全然聞いてくれなかったという不満につながってしまう、というのが今の日本の医療におけるジレンマのひとつです。
今回、私が問診において解決したいのもこの問題です。待ち時間に行う問診票の時点でもう少し突っ込んだ内容をヒアリングできていれば、患者が診察室に入って来た時には医師が行うべき触診や検査、患者説明にもっと多くの時間を使うことができるようになるのでは、と考えています。
更には診断推論のロジックに基づき、ある程度予想される疾患がリストアップされていれば、医師ほどの医療知識がなくとも事前の検査や緊急性の判断など、トリアージ(治療の重要度・緊急度に応じて優先順位付け)が受付スタッフなどにも出来て全体の診察効率が上がると考えています。
ちなみに、このシステムで診断を下すことは全く目的としておらず、医師が時間をかけて診察すべき患者層と、なるべく効率的に回しつつ医師以外のスタッフでサポートしていくべき患者層をトリアージすることが一番大切だと考えています。
問診内容だけで診断を下すことは出来ないですし、経験豊富な医師の総合的な判断というものが診断において非常に重要であることに変わりはありませんが、外来のクリニックにおいて7割以上を締めるTypical(典型的・高頻度)な疾患のTypicalな症例(特徴的症状など)だけでも事前にヒアリング出来ていると業務効率には大きく寄与するという思想です(図2)。
医師と患者の情報格差を少しでも解消したい
医療はすごく複雑できちんと理解するためには膨大な知識が必要です。医師も忙しいので、結論しか患者に伝えていないことも多いです。でも、患者側がもう少しだけ医療における診断の考え方を理解できると、患者にとっても医師にとってもお互いのフラストレーションが少しは減るのかなと感じています。なので、今回の問診も、まずは簡単な診断からでもきちんと医師が考えるステップをなぞり、それが明示されること(どんな質問、どんな理由でこの疾患の疑いが上がるのか、あるいは下がるのか)が重要だし、そのような思想を設計にも反映しています。将来的には、こういった診断の考え方を患者側にも共有できるような機能とかも搭載していきたいなと思っています。
とはいえ、まずは現場のクリニックで使ってもらえるものでないと意味が無いので、現場にとって必要な機能の開発を最優先で進めて行きたいと思っています。
一緒に開発してきた大久保先生にパンフレットを作るにあたって推薦文を書いてもらって、医師側の視点でこのサービスをどう捉えているのか、私自身非常に面白かったので、下記に紹介します。
診断学においては、問診の重要性が再認識されており、正しい診断と診療にたどりつくためには、診察・検査の前にまず適切な問診を行うことが重要であることに異論はないでしょう。名人は、将棋の一手のように、鮮やかな質問を繰り出しながら診断にたどりつきますが、このような問診のコツをスタッフに教えるには時間がかかります。
また、問診は一般の方が対象となりますので、医療的な定義よりも普通の言葉に沿って行われる必要があり、それを医療的な診断カテゴリーに落とし込んでいく作業は、双方の言葉のズレをきちんと理解している必要もあります。
問診システム「SymView」では、これらの問題を吟味・検討し、適切な診断にたどりつき、また頻度は少ないが重大(critical)な病気を見落とすことがないように、日常診療の補助となることを目指しました。今後、多くの方に使用されることで、精度が向上していくことを期待しています。
正直、ようやくリリース出来ただけで、まだまだビジネスになるのはこれから、、というか本当にビジネスになるのかすら怪しい段階です。しばらくは利用してもらえる医療機関を増やしつつ、現場のニーズを取り込んでいければと考えています。多くの医療機関で使ってもらえるようなサービスに育っていけば診断推論の精度も向上するし、更にいろんな付加サービスなどもつけていけるかなと夢想しています。