いろんな薬局の成功の秘訣を教えてもらおう!と始めた薬局インタビュー企画、はやくも第5回目。
個店でも面白い取り組みをしているライフバランス薬局や、高山薬局、数店舗規模の西八幡調剤薬局、その後は大規模チェーンのアイセイ薬局、ココカラファインの対談などもさせていただきました。その中で何回か、今後数十店規模の薬局は厳しくなっていくのではないか、という声を聞くことがありました。
本当にそうなのか?ということで、今回お邪魔させていただいたのは福岡県を中心に調剤薬局73店舗(うちドラッグ併設16店舗)、ドラッグストアを29店舗展開している大賀薬局さん。
今回は、代表取締役の大賀崇浩社長から、大規模でもない、かと言って、小規模でもない調剤薬局として、何を目指して、どんな工夫をおこなっているのか、是非教えてもらおうということでお伺いしてきました。
目次
九州で最も古く調剤薬局、ドラッグストアの業態を開発
大賀薬局は福岡を地場にした、調剤薬局の中でもかなりの老舗だとお聞きしましたが。
そうですね。創業が1902年なので、今年で115年目ですね。(115年目!!)もともとは大賀商店という雑貨屋からスタートして、調剤薬局をスタートしたのが1962年なので50年以上前ですね。おそらく九州でも一番はじめに調剤薬局を始めたんじゃないですかね?まさにこの福岡ビルが1号店なんですよ。(※インタビューは1号店の福岡ビル店でさせていただきました)
50年前といったら医薬分業もまだまだ始まって無かったんじゃないですか?
当時は薬の利益も非常に大きかったですから、お医者さんも薬を手放すなんて意味もないし、患者にとっても二度手間になる、と思われていた時代。そんな中その当時の社長、私の祖母にあたる昌子会長が薬剤師として、薬局・薬剤師が薬に関わる意味というものを、ひとりひとりドクターにお伝えしていって。初めはほとんど門前払いで、名刺をその場で破り捨てられたりもしたというエピソードなんかも聞くほど、相当苦労したようです。でも、少しずつ理解していただけるドクターが増えていって。
そうなんですね。まさに医薬分業の考え方すら無かったような時代に、これからの時代を見据えて、調剤薬局に取り組んだのは凄い苦労だったと思います。
大賀薬局さんはドラッグストアの業態も九州で一番古いとの話しを聞きました。
調剤薬局を進めたのは祖母の昌子会長でしたが、ドラッグストアの業態を開発していったのは父(大賀研一 現会長)なんですよ。特に郊外型のドラッグストア。宇美店という店舗があるんですけど、ここが西日本で一番最初のロードサイドのドラッグストアと呼ばれています。父がアメリカを見に行った時に、郊外型の大型店舗で調剤室がちゃんとあって、OTCや化粧品まで扱ってセルフメディケーションとして予防も含めたトータルな健康サポートをしていくドラッグストア、というものに刺激を受けて、日本でも薬剤師の働き方として主流になっていくだろうということで、持ち込んだんです。
なるほど。時代に先駆けて常に新しい業態を開拓してきたんですね。でも、その後、どちらか一方ではなく、調剤薬局とドラッグストア両方を残したのは何故だったんですか?
結果としてですが、両方やっていることのメリットが大きかったです。30年前なんかはドラッグストア全盛期で、他社もどんどんドラッグストアの店舗を増やしていて、その頃は調剤の事業はドラッグストアの1/20ぐらいの規模しかなかった。でもそこから競合も増えてなかなか差別化がしずらくなってきたタイミングぐらいで、医薬分業の流れが来て、調剤事業が堅調に伸びていった。でも当社は調剤薬局として早くからスタートしていたからノウハウも持っていて、大型の病院の門前薬局なんかもどんどん出すことが出来た。つい5〜6年前ですね。調剤の売上がドラッグストアの売上を逆転したのは。
両方をやっていたからこその強みとは具体的に何だったんでしょうか?
ドラッグストアが事業が厳しいときには調剤が助けて、今は調剤報酬改定だとかで調剤が厳しくなるなか、ドラッグストアがまた伸びはじめてカバーしていく、そうやって2本柱で運営できてきた事が良かったんだと思います。しかも、どちらも高いレベルで。
最近だとドラッグストアのチェーンが調剤も始めるケースも増えてきましたけど、当社の場合はかなり初期の頃から長年やっていることで、ノウハウもありますから、高いレベルの調剤が出来るということで、がんセンターとか中核総合病院の門前なんかの店舗も結構な数出させて頂いて、更にそのことでスペシャリティを持つ幅の広い薬剤師を育てる事が出来る。そこがうちの強みだと思いますね。
誰も注目しない頃から新たな業態を開発していって、そのことが更に成長を呼び込むというサイクルですね。
昨年、九州の流通小売業の中で、売上成長率1位を取ることが出来ました。薬局がどこも苦しんでいる中でそんな薬局あまり無いと思うんですよ。私は自分たちのテーマとして「老舗ベンチャー薬局」って呼んでいるんですけど、新しい取り組みを従業員と一緒に作っていく、ということを積極的にやっています。
お祖母様の調剤薬局業態の開発、お父様のロードサイド型ドラッグストアの開発、と同じやり方に安住せず積極的に新しいことに取り組んでいく気質は、現大賀社長にも受け継がれているようで、最近はコンビニエンス併設型や化粧品専門店などの業態にも取り組んでいらっしゃるとのことでした。しかし、そんな中で、全国展開などの規模を追いかけず福岡を中心とした九州及び沖縄の一部の地域にしか展開していません。他のチェーン店がM&Aで規模の拡大を急ぐ中、大賀薬局が目指している姿は何なんでしょうか?
地域密着ではぬるい。地域一体企業を目指して
大手のナショナルチェーンはどんどん規模を広げていっていますが、大手との差別化ってどのように考えていますか?
「地域密着」ってわりと皆さん掲げているんですけど、我々は地域密着じゃ生ぬるい、「地域一体企業」になろうというキーワードを掲げています。お客様・患者様の健康に関わる生活のインフラ企業になっていこう。そのためにはやはり地域と一心同体になっていかないと、本当に必要な店舗にはなっていかない。
「地域一体企業」とは面白いコンセプトですね。地域一体企業、になるためには、何が必要なんでしょうか?
地域一体企業のためには、従業員ひとりひとりが現場主導で動いていかないといけないんですよね。大手チェーンの場合、今現場の人材が空洞化してしまっていて本当に人がいない。だから誰でも出来るオペレーションにしていかざるを得ない。でも、それだと結局、「物を買う」という行為しか残らないですよね。物を買う、という行為だけであればAmazonとか楽天でいいわけです。だから、店舗にいる従業員ひとりひとりが働き甲斐・やりがいを持ってお客様・患者様・地域と関わっていく、そうじゃないと、地域一体企業なんて出来ないな、と思っています。
例えば、うちの店舗の場合、薬剤師が移動になる場合には、担当の患者様に連絡して、後任の薬剤師への橋渡し・顔つなぎまでしてから、新しい店舗に移動するんです。そこまでしないとお客様には信頼してもらえないですよね。でも、それは大手には無理なんですよ。
広く浅く拡大するのではなく、大手が来ても簡単には剥がされないくらい、深い根を地域の隅々まで張り巡らせる。それが、「地域一体企業」のコンセプトとのこと。同じ地域内に高密度で出店し、地域にも根を下ろしているからこそ薬剤師が患者に対して人と人の付き合いが出来ているんだと感じました。
大手でも、零細でもない。この規模がちょうどよい。
大手で規模の経済を追求していくか、小さい会社としてアジリティを求めるか。大賀薬局ぐらいの規模だとどちらも難しくなりませんか?
当社の社員って1200人くらいいるんですけど、私自身は非常にやりやすい規模だなと思ってますよ。例えば、私からの経営方針発表会というのがあるんですが、全社員に直接話しをするために、全部で17回やるんです(笑)。いまちょうど今後の経営方針発表会をやっていて、先ほども話しました、「新しい取り組みを従業員と一緒に作っていく」ということで、「ともつく2018(ともにつくる2018)」というテーマでやっています。セミナーとディスカッション。1200人だと、17回×80人ずつで全員と会えるんです。それくらいの規模感。
17回は凄いですね!でも確かに、それなら全員と話が出来ますね。なんでそこまでやるんですか?
例えば、私がこういうことをやりたい!と言ったときに、感度の高い1人が100歩行くのは簡単なんですよ。でも全員で同時に一歩踏み出しての100歩は非常に難しい。難しいけど、組織としてはそっちのほうが断然強いんです。だから、組織力という面では大手にまだまだ勝てるし、我々ぐらいの規模であればスピード感をもって出来る。小売って最終的には局地戦なので、局地戦では組織が強い方が勝てますよね。
調剤という業態はなくなる?スペシャリティファーマシーか、泥臭さか。
大賀社長の考える「未来の薬局」を教えてもらえますか?
調剤という業態は無くなっているかもしれないですよね。だって全て機械で出来るようになってしまうから。薬のお渡しにしても、宅配になって行くかもしれないですしね。生産性を突き詰めていって、1000万処方を薬剤師3人で、というように、Amazonの配送センターみたいな事業というのはあるかもしれないですね。そういうセンターは、医薬品卸さんが担っていくんじゃないですかね。
なので、生き残るとすればスペシャリティファーマシーですよね。がん治療とかエイズとかそういった専門のところ。あとは、これはわからないですけど、クリニックの一部機能を担っていく事は考えられますよね。アメリカみたいな方向で進むのであれば、ミニクリニックを薬局がやっている可能性はあると思います。検体測定室もありますし、採血や予防接種が出来るとか、そういった方向に制度を変えていけるのであれば、医療機関はより専門的な医療・手術が必要な病気とかに特化していけますし、風邪やちょっとした病気、もしくは病院にいくべきかの判断をする機関としての薬局、という形では残るかなと思います。
あとは、地域包括ケアとして、薬剤師が在宅を含めどんどん外に出ていって、医師と看護師とケアマネージャーを繋いでいくような地域支援の中心に薬局が立てるか、だと思いますね。大賀薬局でも福岡市だけで営業が8名いて、地域支援とか、地域の健康イベントにブース出したりとか、結構泥臭いところをやっていますよ。
そういった薬局になるために必要なことは?
薬局として残ろうと思うと、突き詰めると人と人になっちゃいますよね。人を育てる上で一番大切なのが、技術とかテクニック的なことじゃなく、モチベーションなんですよね。やる気と、患者に対して寄り添えるか。それには、コミュニケーション能力だったり、コーチング能力だったりするので、大賀薬局でもコーチングの勉強を全薬剤師にさせようとしてます。
結局、従業員の働きがいをしっかり作っていくのが、高成長につながるし、そこに優秀な人材が集まって更に人が成長していく、そういうサイクルを作るのが経営者だと思ってます。
インタビューを終えて
今回のインタビューで終えて、感じたことは「30年先を見据えてチャレンジしていく強さ」でした。決して小さい規模ではないにも関わらず、積極的に新しい業態を開発していく姿勢が、4世代(大賀社長の曽祖父が創業者、社長としては5代目)にわたり脈々と受け継がれています。その理由について尋ねたところ、2つ挙げられていたことが印象的でした。
一つ目は、「薬剤師でないこと」。小さい頃から、薬局のオーナーの家庭でありながら、薬剤師になれとは一言も言われなかったそうです。その結果、経営学部にいき、周りにベンチャーを創業したりする人もいるような環境の中、ご自身も新卒で商社に入社されたとのこと。そういう、医療業界や薬局とは異なる業界を見て経験してきたことが良かったのではないかとのお話でした。
また、もうひとつの回答が「自分には時間があること」。
インタビュー時点で、大賀社長は35歳。
「30年、40年のスパンを見た時に、目先・小手先の手ではダメですよね。だから、人に投資するんですよ。だって、会社って人がいなかったらただの箱ですよね。そこ(人)に投資して、自分の声で伝えることが出来ないんであれば、経営者として私は失格だと思うんです」
これから先、医療や薬局を取り巻く環境変化があろうとも、大賀社長のような若い経営者が「新しい薬局のカタチ」を作っていってくれるのではないか、そういう明るい未来を感じさせてもらえるインタビューでした。