医療機関の集患・増患について考える本連載も、今回で3回目となりました。
前回は、今や医療機関の広報ツールとして欠かせない存在となったホームページについて取り上げました。ホームページはどちらかと言えば新規患者の獲得=集患という側面が強いツールです。
今回は視点を変えて、既存患者に対するマーケティング=増患について取り上げます。待合室という患者との絶好のコミュニケーションポイントを中心に考えていこうと思います。
目次
1:5の法則、5:25の法則
マーケティング用語に、1:5の法則と5:25の法則という言葉があります。
1:5の法則というのは、同じ金額を払う顧客であっても、新規顧客に販売するコストは、既存顧客に対する販売コストの5倍かかるという法則です。
一方、5:25の法則は、既存顧客に対して、顧客離れを5%改善できれば、利益率が最低でも25%は改善されるという法則。つまり、既存顧客の囲い込みは、中・長期的に見れば、新規顧客の開拓より、はるかにコストが安く利益率が高いことを表しています。
この法則は、あくまでも一般企業における考え方ですが、医療機関にも共通する部分があると思います。
医業収入を増やそうとすると、新規患者の獲得に目が行きがちですが、長期的な視野で考えると、既存患者に対するマーケティングの方が実は重要なのです。
ホームページを見る人 < 来院する人という事実
既存顧客のマーケティングと言ってもあまりピンとこないという方もいらっしゃるかもしれません。はじめに、下記(図1)の数字をご覧ください。
実は、ホームページを見る人(=訪問者数)と、来院患者数の平均値には大きな差はなく、来院患者数の方が若干上回るくらいであることがわかっています。
そのため、ホームページにどんなに力を注いでいても、来院患者に対して何も手を打っていなければ、それは大きな機会損失以外の何物でもありません。
既存患者が貴院の何を知っている?
既存患者は再来院前にホームページを見直さない
ホームページ上でしっかり情報提供はしているし、これ以上、既存患者に向けて何を伝えればいいの? と疑問に思われる方もいらっしゃるでしょう。
まずは、既存患者が再来院する際、わざわざホームページを見直さないということを認識してください。
以下図2を見ていただければわかりますが、初診患者は約2人に1人がホームページを見て来院するのに対し、既存患者が再来院前にホームページを見る割合は3割にも及びません。
また、図3のように、初診の際、医療機関をどのように探すかというと自分の症状を診てくれるという前提条件はありますが、通院のしやすさが圧倒的に重視されます。
そして、一度来院してみて大きな不満がなければ、わざわざ他の医療機関を探すことなく、二度三度と通院するというのが一般的な患者行動です。
何年も通っている患者は貴院の最新情報を知らない可能性が高い
既存患者がホームページをあまり見ないということを考えると、数年単位で通い続けてくれている貴院の患者さんは、例えば新しい検査機器の導入や、診療内容をどこまで理解しているでしょうか。
既存患者であるから、貴院のことをよく知っているというのは思い込みに過ぎません。
既存患者が知っていることは、診療科目と、医師や看護師、受付スタッフの雰囲気くらいと思った方がいいでしょう。
待合室で繰返しアナウンスしてファンを増やす
患者を増やすために大切なことは、地域に貴院のファンを増やすことです。
野球ファンが贔屓チームの事情をよく知っているのと同じように、貴院のファンとは、貴院をよく理解した上で通ってくれている患者さんのことです。
ファンを増やすために大切なのは、まず貴院のことをよく知ってもらうこと。
医師の専門領域や診療方針、どういったことを相談してもらいたいのか、さらに言えば、医師やスタッフの人柄まで、地道にアナウンスしていく、ということに尽きると思います。
地道にアナウンスをしていった結果、ファンになってくれた患者は、貴院にとって心強い存在になります。ファンは、黙っていても貴院の良さ=ポジティブな口コミを周囲に拡散してくれ、新たな患者を連れてきてくれます。
ただ、難しいのは、人間は1回伝えただけでは、記憶に残らない生き物だということ。来院する度に、繰返し(地道に! )、アナウンスしていくことが大切です。
待合室でのアナウンスにはデジタルサイネージが効果的
個々の患者に対してと考えると難しいですが、待合室という空間をアナウンスの場と捉えれば、多くの患者に、繰り返しアナウンスすることが容易になります。
最近では、そのためのツールとして、待合室にサイネージを導入する医療機関が増えてきました。
待合室に大型のテレビを設置して、地上波ではなく、医療機関独自のお知らせを放映するというものですが、少し前は、待ち時間のイライラ緩和や、地上波は放映したくないからという消極的な理由で導入する医療機関が多かったように思います。
ここ数年で、既存患者に対する情報提供の場、ホームページと同様に広報ツールの1つとしてサイネージを活用するという意識に変わってきました。
手持ち無沙汰な待ち時間に自然と目に入り、相談しやすい環境に
待合室サイネージの良い点は、まず、自然と目に入る=強制視認をさせられるということ。(図4)
貼り紙や冊子だと患者が見たい情報、見たくない情報と取捨選択しがちです。一方、サイネージは貴院がアナウンスしたい情報を、否応なしに見せることができます。
二点目は、相談しやすい雰囲気づくりにつながるということ。
サイネージで放映される内容は、その医療機関が発信する情報として(ホームページと同じように)、患者に受け取ってもらえます。
そのため、「この症状、自分に当てはまるな。このクリニックで相談できるんだ! 」と思わせることができます。
サイネージを上手く活用することで、待合室が患者とのコミュニケーション空間に生まれ変わるのです。
設置場所・内容・更新頻度を意識した運用で、より効果的になる
待合室サイネージを上手に運用するポイントは3つ。
- ディスプレイ(テレビ)の設置場所
- 放映内容
- 放映内容の更新頻度
設置場所
まず、設置場所は、待合室で自然と目に入る場所を考えます。
待合室の椅子の正面にテレビを設置するのがいいでしょう。(上の写真参照)
放映内容
次に、放映内容。
例えば、ピロリ菌検査をPRした事例では、検査名だけを伝えるのではなく、当てはまる症状や放置することのリスク、検査の流れや治療法まで、ストーリー化したコンテンツを放映したところ、相談数が伸びたという報告もあります。(図5)
更新頻度
最後に更新頻度ですが、定期的に通院する患者に「また同じ内容」と思わせないようにすることが重要です。
すべてを新しくする必要はなく、例えば休診のお知らせ等、鮮度のある情報を合間に放映するだけでも、患者を飽きさせない工夫になります。
ブログのような感覚で、簡単に更新できる仕組みが必要です。