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患者を増やすには患者を知ることから
「患者数が年々減っている」、「開業したのに患者数が伸び悩んでいる」。このような悩みを抱える医療機関が増えています。
昔であれば、良い立地に構えさえすれば、患者は自然と集まったもの。しかしながら、近年では良い立地には空きがなかったり、良い立地であっても競合が多数あったりと、患者を集める・増やすということが一筋縄ではいかなくなってきています。
診療報酬も厳しくなる中、安定的に医療機関を経営していくには、やはり“患者に来てもらえる”医療機関であることが求められます。
具体的に、患者を増やすためには、何をどうすればいいのか。先輩医師も、医師会も、仲の良いMRも…、誰も明確な答えはくれません。その理由は2つ。
- 言葉にしてしまうと当り前のことだから。
- 誰も理論的・体系的に考えていないから。
本連載では、その誰も考えてこなかった増患について、理論的・体系的に考える機会になればと思います。“how-to”ではなく、“考え方”を、全6回にわたってお伝えしていこうと思います。
今回は、患者を増やすためにはまずは患者を知ることから、ということで、問診票の活用術について話をしようと思います。
患者が増えている医療機関は存在する
患者数の減少や伸び悩みに頭を抱えるクリニック経営者は、現状を変えたいという思いを持ちつつも、どこかで「競合医院が増えているのだから仕方ない」と半ば諦めてしまっている方も少なくないように思います。
でも、本当にそうでしょうか。厚生労働省の調査によれば(図1)、確かにクリニック(診療所)数は年々増加傾向にありますが、高齢化の影響もあり、患者数も同様に増えています。
そのため、一施設あたりで患者数を換算すれば、実は、ここ20年ほど大きな変化はありません。
また、病院を対象としたものになりますが、弊社の独自調査では、ここ数年の外来患者数の増減傾向は、患者数が「徐々に増えている」という回答が約3割、逆に「徐々に減っている」が約4割となりました。
つまり、患者数を減らしている医療機関がある一方で、着実に患者数を増やしている医療機関もあるということです。当社のような業者から見ても、患者数を増やしているクリニックは確かに存在します。
では、何が違うのか。患者が集まるクリニックには、“患者がそこを選ぶ理由”があります。
貴院は“なぜ”選ばれているのか
近隣に競合クリニックがないというのは、現在ではあまり考えにくい状況です。ということは、患者は何かしらの理由があって、貴院を“選んでいる”ということになります。
患者がクリニックを選ぶ理由は様々です。たくさんの要素の中から、複数の医療機関を比較し、何らかの優位性を認め、貴院を“選んで”います。
医療機関が選ばれる理由となる、優位性には図2のように強弱があります。優位性の強弱とは、他院がその優位性を獲得することの難しさといえます。
さらに、優位性には、医療機関側にコントロールできるものとできないものがあります。例えば、「家から近い」という理由はアンコントローラブルである一方、専門性や接遇などは、コントロールできる分、優位性として育てていくことが可能です。
患者が集まるクリニックには、強い優位性を認めることができるのです。
貴院の優位性とは何か
では、みなさんのクリニックの優位性は何でしょうか。私は、患者が増えないという悩みを抱えている先生には必ずこの質問をするようにしています。多くの先生は、意外と明確な答えを持ち合わせていません。しかし、患者が来てくれている以上は、貴院は何らかの理由で患者に選ばれている、つまり、優位性があるのです。
勘違いしてはいけないのが、優位性とは“日本一”である必要はまったくないということ。あくまでも、“地域の診療圏”における相対的な強みだと考えてください。
診療圏は、都市部であれば、患者は徒歩、もしくは、自転車で通院するため、ほぼ3km圏内。地方では車で通院する方が多くなるので、10km圏内でしょう。この範囲で、“相対的な強み”をつくればよいのです。
ただ、診療科目によっても診療圏は異なります。患者が専門性の高さを求める場合、診療圏は拡大します。例えば、リウマチを疑ったり、患ったりしている場合は、やはり専門クリニックで診てもらいたいため、電車やバスを使っても通院してくるでしょう。
このように、貴院の環境や診療科目によって、どこを競合とみるのかも異なってきます。診療圏と競合のクリニックを見直すことで、何を貴院の優位性として育てていくべきかが自ずと見えてきます。
問診票は医療機関にとって最大の“マーケティングツール
問診票は優位性を知る最大のツール
貴院の優位性を知るのに、もっとも効果的なのが、新規患者にヒアリングをすることです。それができるツールは、問診票です。新規患者が必ず記入する問診票は、医療機関にとっての最大のマーケティングツールだといえます。
患者データを集める問診票設計のポイント
患者の声をヒアリングできる問診票作成のポイントをご紹介します。ぜひご参考ください。
問診データは経年変化を見る
最後に、問診票を分析する際のポイントについて触れておきます。
問診票から得られた回答データは、単月、もしくは単年だけで分析するだけでなく、経年で変化を見ていくことで、貴院にとってより役立つ情報になります。
年度で比較することにより、季節変動などの要素を除外して判断することが可能になります。また、日々実感しにくい緩やかな変化は、経年でグラフ化すると一目で傾向を把握することができます。
例えば、荻窪中尾耳鼻咽喉科医院様(東京都杉並区)では、問診票で“当院を知ったきっかけ”の聞き取りを行っています。
そのデータを分析すると、ホームページをリニューアルして以降、インターネットを見て来院した患者が増えたことがわかりました。また、出稿費用をかけてバスのアナウンス広告を行っていますが、この広告をきっかけとして来院する人は、月に1人いるかいないか程度であることがわかり、予算の見直しにもつながりました。
毎月・毎年で問診票を分析していくのも手間ですので、集めたいデータを明確にして、その項目だけはスタッフに必ず入力してもらう等、簡単に集計・分析する方法を確立しておくとよいでしょう。最近は、その手間を省ける問診システムも出ていますので、活用するのもいいかもしれません。